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疥癬|高齢者は要注意!

作成日:2020年8月6日

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疥癬|高齢者は要注意!

疥癬は、ヒゼンダニというダニが人に寄生することで発症する皮膚疾患です。大正6~7年と、昭和20~21年に大流行しましたが、当時は貧困や戦争による栄養状態や衛生状態の悪化による集団感染が原因のひとつと考えられています。近年では、高齢者やその介護者に発症が増えている感染症のひとつです。

疥癬とはどんな病気?

疥癬は、ヒゼンダニ(疥癬中、Sacoptes scabie)が皮膚の角質層に寄生して、人から人へ感染する病気です。感染力が強く、非常に多くのダニが寄生する角化型疥癬と、寄生しているダニの数は少なくても強いかゆみを伴う通常疥癬があります。

ヒゼンダニ

ヒゼンダニは非常に小さく約0.2~0.4㎜で、肉眼で見ることは困難です。雄よりも雌の成虫の方が大きく、体は卵型で、体の前後に4本ずつ短い脚がついています。腹部には横に走るヒダと、背部に多数の短いとげのような突起があります。人の体温(36~37℃)程度が最も生息に適しており、16℃以下では動けなくなります。

また高温と乾燥に弱く、人体から離れると通常は数時間で死ぬといわれています。人の皮膚の角質層に横穴(疥癬トンネル)を掘りながら移動し、卵を産み付けます。卵は3~5日でふ化して幼虫になり、角質層のトンネルから出て移動するようになります。卵がふ化して成虫となり、また卵を産むまでの1世代の長さ(ライフサイクル)は10~14日といわれます。

疥癬トンネル

ヒゼンダニは角質層内に体を潜り込ませると、水平に掘りながら前進し、後方に糞や卵を残します。これが細い1本の線状に跡となり、皮膚の表面に見えるようになります。これを疥癬トンネルと呼びます。

主に手首や手のひら、指の間などにできますが、高齢者や乳幼児では足などに認められることもあります。疥癬トンネルの幅はヒゼンダニの大きさとほぼ同じ0.4㎜、長さは5㎜程度が多く認められ、疥癬トンネルの天井にあたる部分には等間隔に約0.2㎜の穴が開いており、トンネルの先端部には雌の成虫が潜んでいます。

ヒゼンダニは角質層よりも内側に侵入することはなく、発疹やかゆみの症状は、虫体や糞によるアレルギー反応といわれています。

疥癬の種類

疥癬は通常疥癬と角化型疥癬の2種類に大別されます。寄生するダニの種類はどちらも同じヒゼンダニですが、寄生しているダニの数に違いがあります。通常疥癬では、重症の場合でも1000匹程度といわれますが、角化型疥癬では100万~1000万匹ともいわれるほど多数のヒゼンダニが寄生することがあります。

これは宿主の健康状態に大きく影響を受け、健康体であれば通常疥癬で留まる可能性が高いのですが、免疫力が低下している場合には角化型疥癬へと悪化する可能性が高くなります。また角化型疥癬では、ヒゼンダニの寄生数が多いことで感染力も強くなっているため、他者への感染防止にも、より注意が必要となります。

【通常疥癬と角化型疥癬】

通常疥癬角化型疥癬
ヒゼンダニの寄生数数十匹~1000匹以下100~200万匹
宿主の免疫力正常低下している
感染力弱い強い
主な症状赤い丘疹・結節角質層が厚くなる
かゆみの強さ強い不定
発症部位顔や頭部以外の全身全身

角化型疥癬

痂皮型疥癬やノルウェー疥癬とも呼ばれます。高齢者や重症感染症、悪性腫瘍などの基礎疾患がある人、ステロイド薬や免疫抑制剤の使用などによって免疫能が低下している人にヒゼンダニが感染することで発症します。感染初期は通常疥癬であっても、角化型疥癬に移行する場合もあります。

通常疥癬では顔や頭には寄生しませんが、角化型疥癬では全身に寄生します。灰色から黄白色の垢のようなものがつき、皮膚が厚く増殖します。かゆみは強いかゆみを感じる場合と、ほとんどかゆみを感じない場合と個人差が大きくみられます。

疥癬の診断と治療

疥癬が疑われる症状に気づいたときは、早めに皮膚科を受診しましょう。

潜伏期間

疥癬の潜伏期間はおよそ1か月といわれ、感染症の中では比較的長い潜伏期間があります。高齢者では症状が出るまでに数か月かかることもあります。この潜伏期間はヒゼンダニに対する感作が成立してから、ヒゼンダニが増殖してアレルギー反応が生じるまでの期間です。角化型疥癬からの感染では、4~5日で発症することもあります。角化型疥癬では一度に多数のヒゼンダニに感染し、増殖に必要な期間が短いために早く発症すると考えられます。

症状

通常疥癬の最も特徴的な症状は激しいかゆみで、多くの場合は夜間に悪化します。首から下の全身に赤いブツブツした丘疹や結節が生じますが、一見すると湿疹やアトピー性皮膚炎、虫刺されとも似ています。もうひとつの特徴的な症状が、ヒゼンダニの通り道である疥癬トンネルの形成で、手のひらや指の間などに多くみられます。角化型疥癬ではかゆみの出現には個人差があり、かゆみをほとんど感じない場合もあります。

角化型疥癬に特徴的な症状は角質の増殖で、皮膚の表面に黄白色の垢が増えたような状態になります。角化型疥癬は感染力が強く、感染の初期は通常疥癬で発症することもあり、家族や身近な人にも、かゆみや発疹など軽度の症状が出ているケースが少なくありません。

検査

症状のある部分の皮膚を顕微鏡で確認し、虫体や卵の有無で診断されます。疥癬トンネルがある場合は、疥癬トンネルの先端近くから虫体や卵が検出できます。トンネルがみられない場合は、結節や痂皮などを顕微鏡で観察します。

治療

治療は、検査の結果ヒゼンダニが検出されて確定診断された人だけではなく、その感染者と接触機会があり、感染の可能性がある人も一緒に治療を開始することがあります。

治療方法は外用療法と内服療法があり、外用薬はローションや軟膏などの塗り薬です。外用薬は、入浴後に首から下の全身(角化型疥癬では顔や頭部も)に膜を作るように塗布します。いずれの薬も卵には効果が少ないため、寄生している成虫の産卵や卵のふ化などを考慮しながら治療を進めていきます。

【一般的に使用される疥癬治療薬】

使用方法特徴
外用薬5%フェノトリン

(スミスリンⓇローション)

1週間隔で2回塗布する。ピレスロイド系殺虫剤で効果が高く毒性が低い。
硫黄軟膏

(5~10%沈降硫黄ワセリン)

1日1回、5~15日間毎日塗布する。乳幼児や妊婦にも使用可能。
クロタミトン

(オイラックスⓇクリーム)

1日1回、10~14日間毎日塗布する。乳幼児や妊婦にも使用可能だが、長期に広範囲の使用は控える。
安息香酸ベンジル状態により異なる。乳幼児や妊婦への使用は控えられる。
内服薬イベルメクチン

(ストロメクトールⓇ3mg)

空腹時に1週間隔で2回内服する。妊婦や小児での安全性は確立していない。肝機能障害や血小板減少の副作用が報告されている。

※上記以外の薬を使用することもあります。
※具体的な使用方法については、医師の指示に従ってください。

医療検索サイト Medical Noteのウェブサイトです。疥癬の治療薬について詳しく説明されていますのでご参照ください。
https://medicalnote.jp/contents/151221-000054-AMPRQW

疥癬後遺症

治療により、寄生していたヒゼンダニが駆除されても、かゆみや丘疹、結節などの症状を繰り返すことがあります。これを疥癬後遺症と呼びます。この場合、ヒゼンダニが検出されないことを確認したうえで、抗ヒスタミン薬やステロイド外用薬などを使用して治療することがあります。

疥癬によって生じる問題

疥癬は適切な治療によって改善が可能ですが、治療中に付随して問題が生じることがあります。

かゆみによる不眠

強いかゆみは、特に夜間に増強するといわれます。激しいかゆみによって不眠になり、日中に眠気が襲ったり、症状が長期に渡ると昼夜が逆転した生活になる可能性もあります。感染者本人がつらいことはもちろんですが、同居する家族や看護者・介護者にも影響を及ぼす可能性があります。

再発の可能性

潜伏期間が長いことや、治療薬が卵の段階では効きにくいことなどから、ヒゼンダニのライフサイクルを考慮しながらの治療が必要です。通常疥癬の場合、約3週間から1か月で終息するといわれますが、その後も再発を防ぐためには、3か月は皮膚状態の観察が必要といわれます。

また角化型疥癬では終息まで数か月を要し、さらに同居の家族や周囲の人の感染リスクを考慮すると、6か月程度の皮膚状態の観察が必要となります。治療や通院が長期化することがあるため、感染者本人を含め、同居する家族や看護者・介護者にとっても負担となることがあります。

同居の家族も一緒に治療を受けることがある

同居の家族や感染者と直接接触の機会がある人は、発症している場合はもちろんですが、発症していなくても、感染者の状態や生活環境によっては、予防的に一緒に治療を受けることがあります。

施設を使用できなくなることがある

感染者がデイサービスやショートステイなどの施設を利用していた場合、他者への感染を防止するために、一時的に施設の利用ができなくなることがあります。場合によっては、家族が仕事を休まなくてはならないなどの影響が出ることがあります。

感染経路と感染対策

疥癬は、感染経路を理解して適切な対策をとることで感染を防ぐことが可能です。

直接接触による感染

肌から肌へ直接触れることで感染します。そのため疥癬の感染者と同居する家族は、感染リスクが高いと考えられます。また直接身体に接触する機会の多い看護や介護の現場(病院や高齢者施設など)では、感染した施設利用者から看護者・介護者へ感染が広がることもあります。

直接感染の防止対策

・感染者と肌と肌が長時間、直接触れないように注意しましょう。

・介護や看護で感染者の肌に直接触れる場合は、使い捨ての手袋、専用のガウンやエプロンなどを着用しましょう。

・感染者と接触した後は手を洗いましょう。

・感染者と同居する家族や看護者や介助者は、毎日入浴しましょう。感染者の入浴は家族の中で一番最後にし、入浴後はお風呂の掃除もしましょう。感染者の入浴については、外用薬の使い方と合わせて、医師の指示に従いましょう。

間接接触による感染

布団やタオルなど、物を介して感染します。ヒゼンダニは人から離れると長くは生きられませんが、温度や湿度などの条件が整うと、数日から数週間生存が可能ともいわれています。そのため、感染者が使用した寝具やタオル類など、物を介して感染の可能性もあります。

間接感染の防止対策

・感染者が使用した寝具などはこまめに交換し、洗濯をしましょう。シーツや布団カバー、肌着などの直接肌に触れるものは毎日洗濯しましょう。洗濯物を運ぶときには、ビニール袋にまとめて入れて運びましょう。

・布団は、日光に当てて干したり布団乾燥機をかけたあと、掃除機もかけるようにしましょう。

・寝具や布団から出たホコリにはヒゼンダニが生息している可能性があります。できるだけホコリがたたないよう静かに扱い、室内は毎日掃除機をかけましょう。

・タオルなど、肌に直接触れるものは感染者と共有しないようにしましょう。

・洋式の便座は、使用のたびにアルコール清拭をしておきましょう。

角化型疥癬からの感染

角化型疥癬では、感染者に寄生しているヒゼンダニの数が非常に増えていることに加え、感染者の皮膚状態の悪化により皮膚が落屑すると、その落屑に含まれるヒゼンダニが周囲に飛散することで感染のリスクは高まります。

角化型疥癬からの感染防止対策

前記の通常疥癬の感染防止対策に加えて、感染者の個室管理が必要となります。症状や生活環境によっては入院が必要な場合もあります。

・感染者は個室で生活するようにしましょう。感染者の生活する部屋へ入るときには予防着を着用し、在室は最低限の時間に留めましょう。

・感染者と直接肌が触れないようにし、感染者の生活する部屋の入退室ごとに手を洗いましょう。

・ヒゼンダニは熱と乾燥に弱いので、感染者の肌に直接触れた物を選択する際には、50℃以上の熱湯に約10分浸漬してから洗濯したり、乾燥機の使用はヒゼンダニの駆除に効果的です。

・宿主となる人の免疫力が低下していると、ヒゼンダニは活発に増殖します。規則正しい生活と栄養バランスの良い食事を心がけ、体力と免疫力を維持することは感染予防に必要です。

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疥癬についてのまとめ

健康な成人であれば、疥癬に感染するリスクは低いと考えられていますが、高齢者では、体調や身体機能の状態によって毎日の入浴が困難な場合も多く、さらに持病や服薬により体力や免疫力が低下していることで疥癬に感染しやすく、悪化する可能性があります。しかし疥癬は、感染予防や適切な治療によって改善することが可能な感染症です。疥癬について正しく知り、感染予防と早期発見に努めましょう。

この記事の作成者:S.M(管理栄養士)
この記事の提供元:シルバーライフ

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