こんにちは!配食のふれ愛のコラム担当です!
栄養バランスのよい食事をとりたい方へ、お弁当の無料試食はこちらから!
厚生省(当時)と日本歯科医師会は、1989年(平成元年)に「80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」という目標を設定し「8020運動」をすすめてきました。現在は次のステップとして「8020健康長寿社会」の実現を目指しています。歯周病などの重症化を防ぎ8020を達成することで、しっかり噛んで食べることができます。
これは高齢者の栄養状態を良好に保つだけではなく、生活の質( Q O L= Quality of life )を保つことにもつながります。
高齢者の口腔ケア:歯と口の基礎知識
口は食べ物の入り口であり、消化器官の一部でもあります。一日に何度も食べたり飲んだりしていますが、歯と口を消化器官として考えることはあまりないのではないでしょうか。何歳になっても口からおいしく食べるためには、口腔内の環境が良好に保たれていることが大切です。
歯と口の構造
口は、唇、あご、頬、舌、歯、歯ぐき、そしてその他の口腔粘膜でできています。
通常、上あごと下あごで左右に7本ずつ14本の歯があり、合計で28本です。親しらずが全て生えている場合は32本の歯があることになります。歯は通常、白色または黄白色ですが、コーヒーや紅茶の多飲やたばこによって着色することがあります。歯は歯根膜を挟んで上下のあごの骨に埋まっていて、歯根膜、あごの骨、歯ぐきで支えられていますが、外から見えるのは歯ぐきの部分だけです。
健康な歯ぐきはピンク色で引き締まっており、よく見るとミカンの皮のようにザラザラとした表面です。
健康な歯 歯周病の歯
口内フローラ
腸内細菌の細菌叢を「腸内フローラ」と呼ぶことは広く知られるようになりました。
同様に口腔内にも300~700種類もの細菌が存在していて、口腔内の細菌叢は「口内フローラ」といわれます。口内フローラには良い細菌だけではなく、むし歯や歯周病の原因となる病原菌も存在しています。歯周病の原因菌の多くは嫌な臭いを発生するため、口臭の原因となります。
口内フローラは口腔内の環境だけではなく、全身の健康にも影響を及ぼすことがわかっています。私たちは食べ物や唾液と一緒に、毎日約100億個の細菌を飲み込んでいるといわれています。これらの細菌のほとんどは胃の中で殺菌されますが、一部は腸まで届き腸内環境に影響することがわかっています。
特に高齢者の場合は、嚥下機能の低下によりだ液を誤嚥する可能性は高く、就寝中にも不顕性にだ液を誤嚥していることなどが肺炎の原因となります。
高齢者の口腔ケア:むし歯と歯周病
口の中の病気というと、まず思い浮かぶのはむし歯だと思います。歯周病について一般的に知られるようになったのは最近のことで、歯周病、歯槽膿漏と聞くと高齢者がかかるものだと思われていました。しかし口の中の環境が悪いと、子供でも歯周病になる可能性があります。むし歯も歯周病も細菌が原因となる口腔内のトラブルです。
むし歯
むし歯は歯と歯の間や歯と歯ぐきの境目など、プラークと呼ばれる細菌の固まったものが付着しやすい場所にできることが多く、初期のむし歯はわずかに黒く変色しているだけで痛みもなく、気づきにくいことがあります。むし歯が大きくなると歯が欠けてしまい、さらに治療せずに放置すると歯の内部にある神経を損傷するため、歯がしみたり痛みが出たりします。
さらに長期間むし歯を放置すると、歯ぐきの上から出ている部分のすべてが欠けてしまい、歯の根だけがあごの骨に残ります。この状態になってしまうと、歯としての機能は果たせず、むしろ口腔内細菌が溜まりやすくなり口腔内の状態が悪化してしまいます。
歯周病
歯周病は歯ぐきの病気です。プラークの付着によって歯を支える組織に炎症が生じ、歯ぐきが腫れたり、歯ブラシが当たると出血したりします。これらの症状は軽度であれば数日で消失することもありますが、歯周病が進行して歯ぐきの下のあごの骨に炎症が及ぶと、歯を支えている骨が吸収されてしまい、次第に歯が揺れてくるようになります。
歯周病は慢性的に進行することが多いのですが、入院時や体調不良時などは、免疫機能の低下や十分な口腔ケアができないことなどによって、一時的に急性化することもあります。
歯みがきが予防の第一
むし歯と歯周病の予防には、プラークとプラークが固まった歯石を除去することが最も大切です。デンタルフロスや歯間ブラシなども使用して、毎日丁寧な歯みがきを習慣にしましょう。歯ブラシで効率よく汚れを落とすには、いくつかのコツがあります。ライオンの口腔ケア商品クリニカのホームページです。歯みがきのコツを簡潔に示してあるので、参考にしてください。
画像引用:https://clinica.lion.co.jp/oralcare/hamigaki.htm
高齢者の口腔ケア:歯の欠損と治療
歯が欠損するほとんどの原因はむし歯と歯周病です。下の表に示したように8020運動の成果は高く、60代70代では歯の欠損数は著しく減少しています。
歯の欠損本数に比例して咀嚼機能は低下すると考えられます。
20本以上の歯を有する者の割合の年次推移(%)
年齢階級 (歳) | 平成5年 (1993年) | 平成11年 (1999年) | 平成17年 (2005年) | 平成23年 (2011年) | 平成28年 (2016年) |
40~44 | 92.9 | 97.1 | 98.0 | 98.7 | 98.8 |
45~49 | 88.1 | 90.0 | 95.0 | 97.1 | 99.0 |
50~54 | 77.9 | 84.3 | 88.9 | 93.0 | 95.9 |
55~59 | 67.5 | 74.6 | 82.3 | 85.7 | 91.3 |
60~64 | 49.9 | 64.9 | 70.3 | 78.4 | 85.2 |
65~69 | 31.4 | 48.8 | 57.1 | 69.6 | 73.0 |
70~74 | 25.5 | 31.9 | 42.4 | 52.3 | 63.4 |
75~79 | 10.0 | 17.5 | 27.1 | 47.6 | 56.1 |
80~84 | 11.7 | 13.0 | 21.1 | 28.9 | 44.2 |
85~ | 2.8 | 4.5 | 8.3 | 17.0 | 25.7 |
義歯
義歯には、歯が全くない人が使う総義歯と部分的に歯がない人が使う部分義歯があります。平成23年国民健康・栄養調査報告では、70歳以上の約60%の高齢者が食事の時にいつも義歯を使用していると報告されていて、歯の欠損を補うための最も一般的な方法といえます。
義歯には良い義歯と悪い義歯があるといえます。良い義歯は使う人にぴったりと合っていて痛みや違和感がなく、取り扱いが簡単で使いこなせる義歯です。ぴったりと合った義歯を使用することで、咀嚼の必要がないペーストの食事を摂っている場合でも、摂食嚥下機能に改善がみられることもあります。
悪い義歯は痛みや違和感があったり、口を開けると落ちてしまったり、すぐに外れてしまうような義歯で、食べにくいだけではなくお口の中を傷つけてしまったり、歯肉炎などトラブルの原因になることもあるため、歯科受診し修理や調整を行いましょう。
良い義歯であっても、2~5年ほど使用すると合わなくなってくることがあります。総義歯であっても、定期的に歯科受診を受けることをお勧めします。
また、良い義歯を作るために大切なのが、歯科医師に痛みや不具合などの情報を正しく伝えられるかどうかです。義歯の使用感は使っている人にしかわかりません。どこに痛みがある、きつい、緩いなどを歯科医師に正確に伝えられることが必要です。
ブリッジ
欠損した歯の本数が少ない場合に適応される治療方法です。欠損した歯の前後の歯を支えとして、橋渡しするように欠損部を補綴することから「ブリッジ」と呼ばれます。取り外しはせず固定されており、自分の歯とほぼ同じような感覚で噛むことができます。
インプラント
インプラントは、あごの骨に人工の歯根部を埋め込み、その上に土台と人工歯を設置する補綴方法です。見た目がきれいで自分の歯とほぼ同等の機能があり、残っている歯への影響も少ないといわれます。しかし義歯やブリッジと比べて治療費が高く、手術が伴うため、誰でも可能な方法ではありません。
高齢者に向いている補綴方法はどれか
昭和の時代、プラスチックの素材や加工技術の進歩によって、義歯も大きく進化しました。当時は現在よりも若いうちから歯の欠損が多かったこともあり、残っている歯も全て抜いてから総義歯を作る、という方法も多くとられていました。
義歯は口の中から取り出して全体を見ながら洗浄ができる、本人ではなくても洗浄や管理ができるという点では、高齢者向きといえるかもしれません。しかし食べる機能についてはブリッジやインプラントの方が自分の歯と同等の働きがあるといえます。
ブリッジもインプラントも手入れの良し悪しによって、良い状態をどのくらい維持できるかは変わってきます。自分でしっかりと口腔ケアができて、定期的に歯科受診が受けられるうちはよいのですが、長期の入院や身体機能の低下、認知機能の低下などによって口腔ケアが困難になった場合は、ブリッジやインプラントの方が残っている歯や全身に及ぼす影響は大きい場合もあります。
歯の欠損があった場合、その時の年齢や欠損歯の場所、本数、口腔ケアが可能かどうかなど、いろいろな要件について歯科医師と相談しながら、補綴の方法を選ぶことが大切です。
歯がなくても食べられる?
高齢者の中には義歯の使用経験がなく、残っている歯もほとんどないような状態であっても、普通の食事が摂れている人もいます。長い年月をかけて徐々に歯が欠損していく過程で、歯がなくても食べられる食べ方を身に付けていることが多く、おせんべいやたくわんなど何でも歯ぐきで食べています。
このような場合では、義歯を作成しても逆に食べにくくなることがあります。咬み合わせがよくなることで、必ずしも食べる機能が回復するとは限らないことに注意が必要です。
その他の口腔内の病気
むし歯と歯周病の他にもお口の中の病気は多くあります。比較的、高齢者に起こりやすい疾患について挙げます。
口内炎
口内炎は口腔粘膜の炎症です。多くは直径数ミリ程度の円形の潰瘍で、小さくても強い痛みを伴うことがあります。原因は不明なことが多く、機械的刺激やストレス、栄養状態など、いろいろな要素が影響して発症するといわれます。特別な治療をしなくても数日から数週間で自然治癒することが多いですが、うがい薬や軟膏が処方されることもあります。
高齢者の場合は、義歯の一部や自分の歯が当たっていることで発症することがあります。義歯の修正や新規作成後に発症することもあります。
口腔乾燥症
原因は口呼吸や水分摂取不足のための脱水傾向、薬剤の副作用などがあります。他の疾病治療によって唾液腺が障害され、だ液の分泌量が減少しても生じます。
水分摂取による脱水の改善、服薬の調整、唾液腺マッサージなどの他、口腔内の保湿剤を利用することも有効です。
類天疱瘡
手足や顔など、体に水疱ができるのが主な症状ですが、歯ぐきや粘膜に水疱ができることもあります。機械的な刺激によって水疱が潰れて出血したり、粘膜が剥離してしまいます。強い痛みもあるため、食事を摂ることが困難になることがあります。
帯状疱疹
帯状疱疹は水痘に罹患後、体内に潜伏感染していたウイルスが、免疫機能の低下によって再活性化されて発症します。体に帯状に痛みを伴う発疹ができるのが主な症状ですが、口腔内に水疱が形成されることがあります。抗ウイルス薬の投与で治癒しますが、口腔内の広範囲に強い疼痛が生じることがあるため、食事を摂ることが困難になることがあります。
口腔カンジダ症
真菌の1種であるカンジダの感染によって発症します。頬の粘膜や舌などに白苔がついたり、粘膜の発赤があり痛みが伴うこともあります。原因は口腔ケアが不十分なことに加えて、化学療法後の免疫不全や長期に渡るステロイドの使用、抗菌薬の投与などがきっかけとなって発症することがあります。
高齢者の口腔内の特徴
高齢者は口腔の機能も徐々に低下していき、子供や若い世代とは異なる特徴があります。
むし歯になりやすい場所が変わる
子供のむし歯は、磨き残しの多い歯と歯の間や、歯の表面のへこみや溝の部分から発症することが多いのですが、高齢者では歯ぐきがやせて下がってくることで、歯と歯ぐきの境目が虫歯になりやすくなります。
また、治療した歯の詰め物の中や被せてある冠の中など、外からは見えない部分でむし歯が進行していることもあります。
口腔内が乾燥しやすい
加齢とともにだ液の分泌量は減少します。他にも薬の副作用として口渇があったり、単純に水分の摂取量が少ない場合もあります。唾液腺マッサージを行ってだ液の分泌量を増やすようにしましょう。乾燥がひどい場合は、口腔内を潤すために塗る保湿剤などの利用も試してみるとよいでしょう。
自浄作用が低下する
だ液には口腔内の食べかすを流したり、pHを調整したり、口腔内の細菌のバランスを保つなどの働きがあります。これらの働きによって口腔内の環境が良好に保たれていますが、だ液の分泌量が減ることで自浄作用も低下し、口腔内の環境が悪化していることがあります。
食べ物が残りやすい
だ液の分泌量が減ることに加えて、歯と歯の間のすき間が大きくなったり、舌の動きに低下があることで、食べ物が口腔内でうまくまとめられずに、唇と歯ぐきの間などにも食べ物が残りやすくなります。
歯科訪問診療について
在宅で生活している高齢者の方の中には、歯科診療所への通院が困難な場合があります。まだ一般的にはあまり知られていないのが現状ですが、往診に来てくれる歯科医師・歯科衛生士がいます。歯科の訪問診療は、何らかの身体的、精神的理由で歯科診療所に通院できない方が対象です。
歯科訪問診療を希望される場合は、かかりつけの歯科医師、担当のケアマネージャーやお住いの地域の市区町村窓口、お住いの都道府県歯科医師会などに問い合わせをしてみましょう。
高齢者の口腔ケア:まとめ
高齢者の口腔内は加齢に伴った特徴があります。お食事がペーストだからといって、歯が不要なわけではありません。歯や口腔内の環境を整えることは、噛むだけでなく飲み込むことにも良い影響があります。安全においしく食べるために、口腔内の環境にも注目してみましょう。