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食事をしているとき、体のどの部分をどのように使っているのか、考えながら食べたことはあるでしょうか?「食べる」ことは生きていく上であまりにも当然な行為のため、その機能について日常考えることはほとんどないと思います。
人間は二足歩行になり言葉を獲得したことで、食べる機能は非常に複雑なものになりました。食べる機能のメカニズムを理解することで、年齢を重ねていく上で誰にでも起こる可能性がある「摂食嚥下機能の低下」についても理解できます。最後まで口から食べるためにできることは何かを考えてみましょう。
目次
「食べる」行為は5段階に分けられる
普段、何気なく行っている「食べる」という行為は、5段階に分けて考えられています。
いつも食べているときのことを思い出しながら、5段階のそれぞれを考えてみましょう。
食事は食べ物を「見る」ことから始まっている
人は何かを食べようとするとき、まず初めに目の前にあるそのものを見て、それが食べられるかどうかを判断します。これはほとんど無意識のうちに行われていて当たり前のことのようですが、これまでの経験に基づいて食べ物であるかどうかを判断しています。この段階を「先行期」または「認知期」といいます。
食べ物であると判断すると、体は食べる準備を始めます。以前に食べた時のことと照らし合わせて、見た目やにおいなどから味や食感や温度を予測したり、だ液や胃液などの分泌や消化の準備を始めます。
口唇周辺の筋肉を駆使して噛む
食べ物を口に入れるときには、あらかじめ切ったり、ちぎったり、前歯で噛み切ったりして、自分の口の大きさに合わせた一口の量にしています。そして食べ物を奥歯の方へ運び、噛み砕きます。この噛んでいる段階を「準備期」または「咀嚼期」といいます。
噛みながら食べ物を左右へ移動させたり、噛み砕いてばらけた食べ物をまとめてだ液と混ぜたりしていますが、これには頬、口唇、舌、あごなどの様々な器官の筋肉を駆使しています。
噛んでいるとき唇はしっかりと閉じてあごを動かし、舌の運動によって口の中で食べ物を移動させています。特に舌の運動は非常に複雑で、前後、左右、上下の運動の他に、舌の旋回運動(ねじる動き)ができることで、咀嚼が円滑に進みます。
しっかりと噛んでだ液と混ぜられた食べ物は、自分が飲み込むのに丁度良いかたさ、大きさの塊(食塊)にされます。
意識的にできるのは嚥下反射「ごっくん」まで
自分が飲み込むのに丁度良くまとめられた食塊は、舌の中央に置かれます。舌の先を上あご(上前歯の裏側あたり)に押し当てることで、食べ物が口の奥へと送り込まれます。この段階を「口腔期」といいます。
口の中の圧力が徐々に高まり、食べ物が口(口腔)からのど(咽頭)へ送り込まれると、嚥下反射がおこります。健康な人の場合、本人の意思でできるのはここまでで、ここから先は意識的に調節することはできなくなります。
飲み込む瞬間は息が止まっている!
ごっくんと飲み込み、食べ物が口からのどへ移動する段階を「咽頭期」といいます。
食べ物の通り道である食道と空気の通り道である気管は隣り合っています。ホースが2本並んでいるようなイメージです。前方(お腹側)が気管、後方(背中側)が食道です。そのままでは飲み込んだ食べ物は両方へ流れ込んでしまうので、「ごっくん」の瞬間には気管の入り口に蓋がされます。
大きく口を開いたときに見える口蓋垂(のどちんこ)の、さらに奥に喉頭蓋という弁のような器官があります。「ごっくん」の瞬間、この喉頭蓋がパタンと倒れて気管の入り口をふさぐため、食べ物は食道へと流れ込みます。同時に上あごの延長にある軟口蓋という器官が鼻へ続く道をふさぎます。このため、ごっくんと飲み込むほんの一瞬だけは、呼吸が停止していることになります。
食べ物を胃に送るために、食道も動いている
食べ物が食道へ流れ込みむと、食道の蠕動運動(イモ虫のような動き)と重力によって胃へと送られます。この段階を「食道期」といいます。
食べるための一連の運動は、筋肉の運動と反射の連続によって絶妙にコントロールされています。食事の時にこれらの体の動きを意識することはほとんどありませんが、この過程のどこか一部に不具合が生じただけでも、食べることが難しくなってしまうのです。
各段階で生じる問題とは
それぞれの段階で生じる問題によって、症状や対処しなければならないことは様々です。段階ごとに起こる可能性のある問題について具体的に考えてみましょう。
先行期(認知期)に生じる問題
先行期に行われていることは主に「食べ物を認識する」ことです。それまでの経験を基に、食べ物を食べ物として正しく認識できることが重要といえます。
このことから、認知症を発症すると先行期に問題が生じることがあります。最もわかりやすいのは、異食といわれる食べ物ではないものを食べようとしてしまう行為です。
認知症の発症によって、テーブルに飾ってある花が果物のように見えているかもしれませんし、おはじきやビー玉があめ玉に見えているのかもしれません。口に入れた時に窒息など事故の恐れがあるものは、目につかない場所にしまっておくようにしましょう。
また、食べ物を正しく認識できたとしても、箸やスプーンなどの食具の使い方が分からなくなってしまうこともあります。箸を逆さまに持ったり、手づかみで食べようとしたり、どんな料理でも器に口をつけて飲もうとしたりといった行為が表れてくることがあります。
準備期(咀嚼期)に生じる問題
食べる行為の5段階の中で、もっとも口唇周辺の運動量が大きいのが準備期です。運動量が大きい分、ちょっとした痛みや不具合でも食べにくさを感じるようになります。
1.歯(義歯)や口腔内の状態
準備期は噛むことが主な段階ですので、歯の状態が大きくかかわっています。誰でも歯に痛みがあったり口内炎ができていると、いつもより食べにくかったり食欲が低下したりします。日常の口腔ケアを丁寧に行い、歯や義歯の他にも口腔内の状態に問題がある場合は早めに歯科受診をしましょう。
2.噛むための筋力の低下
噛むことに重要なのは歯だけではありません。食べ物を口に取り込むときは唇を使い、しっかりと噛むには唇を閉じていなくてはなりません。そのため、口唇周辺の麻痺や口唇周辺の筋力低下によって口唇がしっかり閉鎖されないことで、噛むことや飲み込むことが難しくなります。
特に液体は、唇をしっかりと閉じることができなければ口の中からこぼれてしまいます。歯科の治療で麻酔をした時に、うがいの水がこぼれてしまうのと同じような状態です。
歯の状態と合わせて、奥歯を嚙みしめる力(咀嚼圧)も重要です。こめかみあたりから下あごにつながる側頭筋と、頬骨から下あごを覆うようにつながる咬筋は奥歯を噛みしめるために重要な筋肉です。この筋力は触診によって確認することができます。
次の方法で噛みしめる力を触って確かめてみましょう。
< 咬筋と側頭筋の触診方法 >
①左右の耳たぶの下から少し内側を、人差し指、中指、薬指の3本の指の腹で軽く抑えます。
②できるだけ奥歯を強く噛みます。
③咬筋が緊張してかたくなり、指を押し返す感覚で評価します。
1. 強い | 指が強く押され、咬筋がかたくなっていることが明らかにわかる。 |
2. 弱い | 指が押されるが弱い。咬筋がかたくなっているのがよくわからない。 |
3. なし | 指が押し返される感覚がない。咬筋がかたくなっているのがわからない。 |
3.舌も筋肉
舌も主に筋肉でできています。舌が思い通りに動くことで、口の中の食べ物を自在に動かし、飲み込みやすい形状にまとめることができます。準備期では、前後、左右、上下、旋回、と滑らかに舌を動かせることが食塊の形成にとても重要です。
麻痺などで舌の運動が制限されたり、舌の筋力が低下して動きが鈍くなることで、口の中で食べ物がばらけてしまい上手く食塊が作れなかったり、食べ物を奥へ送り込むことが難しくなったりします。
咀嚼に時間がかかる、むせこむ、などの症状が表れることがあります。
口腔期から咽頭期に生じる問題
準備期で自分に丁度良く作った食塊を奥へ送り込み、嚥下反射が起きるまでが口腔期、嚥下反射が起きて、喉頭蓋が倒れて気管に蓋がされ、食べ物が食道へと流れ込むまでが咽頭期です。口腔期から咽頭期は短時間に食べ物が大きく移動し、気管付近を通るため、誤嚥や窒息といった事故のリスクが非常に大きな段階といえます。
ここでも舌の働きが大変重要です。食塊を奥へ送り込むときには、まずある程度の力で舌の先を上あご(上前歯の裏、歯の付け根あたり)に押し付けることが必要で、これに連動して他の器官も動いて嚥下反射がおきます。
ごっくんと飲み込む非常に短い時間に、口の中とのどではいくつもの器官が連動して複雑な動きをしているため、ちょっとしたタイミングのずれでもむせこんだり、鼻の方へ水分や食べ物が流れ込んだりすることがあります。
食道期に生じる問題
食べ物が無事に食道に送り込まれれば、まずは一安心といえます。食道は腸と同じように蠕動運動によって胃へと食べ物を送ります。この蠕動運動にも食道の筋力が必要であり、高齢者の場合は十分な蠕動運動が起きていない可能性があります。高齢者に多い逆流性食道炎は食道の蠕動運動の不全も一因と考えられます。
食後しばらく座った姿勢を保つことで、重力によっても食べ物は胃へと落ちていきますので、高齢者は特に、食後は上半身を起こした姿勢で食休みの時間をとるようにしましょう。食後間もなく横になることで、食道の上部に残っている食べ物が逆流し、嘔吐したり、吐物が気管をふさいでしまう危険があります。
最後まで安全に口から食べるために
食べる機能の5段階について考えたとき、どの段階でも筋力が必要ということがご理解いただけたと思います。高齢者の筋力低下と聞くと、どうしても足腰の筋力を想像してしまいがちですが、筋肉は全身についていて、体を動かすには必ずどこかの筋肉を使っています。
口腔内の手術後や脳梗塞の後遺症などで食べる機能に障害がおきた場合はもちろんですが、健康であっても口唇周辺や口腔内、頭頚部などの筋力が低下することで、少しずつ食べることが大変になってくることがあります。
いつまでも口からおいしく食べるために、30代、40代からでも始めたいことがあります。
食べるための筋力を維持する
筋肉を作るために必要なホルモンは、30歳から分泌量が低下し始めるといわれています。
同じ食事を食べて、同じ運動をしたとしても、筋肉を合成する効率が悪くなるということです。しかし、効率が悪くなるといっても筋肉が作られなくなるわけではありません。70歳を過ぎても筋肉は作られることもわかっています。
現代では食べるもの全体がやわらかくなってきていて、噛む回数は弥生時代の人と比べると1/6にも減っているといわれています。特に子供のころかやわらかいものを食べてきている場合は、食べるための筋力が十分に鍛えられていない可能性も考えられます。
1.噛む回数を増やす
毎日の食事の時に、意識的に噛む回数を増やしましょう。咀嚼や摂食嚥下機能に問題がない場合は、無理のない範囲で次のことを試してみましょう。
・ご飯をややかために炊く。白米だけではなく玄米や麦を混ぜる。
・野菜は大きめに切って調理する。やわらかくし過ぎない。
・デザートやおやつは菓子類ではなく果物を食べる。
2.唇、頬、舌を動かす
日頃から、気が付いたときに次のような運動をするようにしましょう。
・唇:唇をすぼめて前へ突き出す → 唇を一文字に閉じて横に引き絞る
・頬:頬をおもいきり膨らませる → 頬をへこませる
・舌:舌で左右の頬を押す → 舌で唇を内側から押すようにしながら大きく1周する。
3.パタカラ体操をする
高齢者施設などでは広く実践されている体操です。食前に大きな声で発生しながら行うのが効果的ですが、声を出さなくてもできます。
・大きく口を開けて「パ・タ・カ・ラ」と繰り返す。
・「パパパパパ・タタタタタ・カカカカカ・ラララララ」と繰り返す。
口腔ケア
おいしく安全に食べるためには、やはり歯の健康は欠かせません。毎日の歯みがきに加えて、定期的に歯科健診を受けることをおすすめします。
特に高齢者の場合、可能であれば食事の前後に歯みがきをすることが理想的です。食前の歯みがきによって口腔内がサッパリして味をよく感じられるようになりますし、口腔内が刺激されてだ液の分泌も促進されます。歯みがき粉は使用しなくて構いません。歯ブラシを濡らしてから歯と歯茎をブラッシングし、よくブクブクうがいをしましょう。
義歯を使用している場合も同様に、食事の前後に口腔ケアをできることが理想的です。義歯を外して水洗いをし、残っている自分の歯を濡らした歯ブラシでブラッシングし、ブクブクうがいをしましょう。
総義歯の場合は外して水洗い後、ブクブクうがいをします。口腔清拭用のスポンジを水で濡らして絞り、口腔内と歯茎を清拭します。口腔内を清潔に保つことだけではなく、歯茎のマッサージ効果が得られます。
舌の動きが重要?(まとめ)
普段の食事では、どこをどうやって動かし、どこの筋肉を使って食べているかなど気にすることはないと思います。ぜひ一度、食事を摂りながら、噛んでいるときの唇の状態や舌の動き、飲み込んでいるときの舌の位置やのどの動きなどを意識してみてください。摂食嚥下機能についての理解が深まるのではないでしょうか。