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家族が認知症だと診断されたとき、ご家族もショックを受けられたことでしょう。そしてご家族以上に本人もショックを受けられたことだと思います。
認知症は残念ながら、現時点では治療する方法が見つかっていません。しかし従来よりも症状の進行をゆっくり遅らせることは、少しずつできるようになっているということです。
このような事実を考えると、認知症のご家族がいらっしゃる場合には、本人の気持ちと介護者の気持ちをできるだけ無理のない状態にすることが大切です。
この記事では、認知症になられた本人の気持ちを介護者が理解することで、介護者自身の気持ちも楽になれるような考え方を解説しています。
目次
認知症の人の気持ちを知ろう
介護者は認知症の方の気持ちを知ることからはじめましょう。
どんな気持ちで暮らしておられるのか、どんな気持ちから行動が生まれているのか。
こういったことを冷静に知識や情報として知ることで、介護者であるご家族の暮らしにも役立つことでしょう。
認知症の人がいつも抱えていること
認知症の人がいつも抱えていること、それは「不安」。この言葉に凝縮されます。
ただし「不安」と言っても、本人の
・症状
・進行具合
・価値観
・性格
・家族の接し方
によって、現れてくる反応や感じ方は違ってきます。
認知症になられた方は、突然にすべての記憶がなくなるわけではありません。身の回りに起こっていることが全部理解できなくなるわけでもありません。
症状の初期段階では、気になることやいつも使っていたものが思い出せないことが起こります。
症状が進むと、目の前の人が妻か娘か確信を持てないこともでてきます。
同じことを何度も聞くこともあるでしょうし、繰り返し何度も確認する方もいらっしゃいます。
これはすべて「なにかおかしい」と感じている結果「不安」になり、行動として現れているのです。
そして症状が進行すると、今確認したことがわからないので「何度も同じことを聞かないで!」と家族や介護者が声を荒げたとしても、本人は「えっ?さっきも聞いたのか?」とか「もしかしたら聞いたかもしれない」と思い、思い出せないことを「不安」に感じ、また同じことを繰り返すようになることがあります。
人は不安を感じると、何とかして正しい状態を知りたいと考えます。
認知症の方も、これと同じ状態になっていると言えるでしょう。
認知症の人の世界を知ろう
認知症の人は、症状が進むとコミュニケーションを取るのが難しくなります。
それは、
・時間
・場所
・人物
こういったことを理解することが難しくなるからです。
そのため、自分の家にいるのに「そろそろ帰らないと」と言い出すこともあります。家族や介護者からすると「あなたの家ですよ」という思いから理屈に合わない言動と行動にイラ立つこともあるでしょう。
しかし、認知症の人は現状がわかっていないので仕方ないのです。ここでまわりが叱ったとしても、本人は叱られている理由がわからないため「不安」が増えるばかり。
その結果、気持ちが不安定になる、何とか正しいことを知ろうと焦り、より理屈に合わない言動や行動が出てくることもあります。
認知症の人は、認知症でない人とは違った世界を生きていると理解しましょう。大らかな対応が良いことはわかっていますが、なかなか難しいことでもあります。
でも、文化も世界も違っている人だとわかれば、イライラも少なくなり、お互いの気持ちも安定するはずです。
認知症の症状が強い場合に注意すること
認知症の症状が強くなる場合があります。そういう場合、某かの原因が身の回りに起こっていることが多いです。
例えば、高齢者の方に多いのが、
・脱水症状になっていた
暑い日で汗をかいていても、暑さがはっきりとわからない、または体調が思わしくないことがわからないため、イライラが募り症状が強くなっていることもあります。
・便秘している
水分不足や栄養不足によって、おなかが張る、便秘になると苦しさからイライラして症状が強くなることもあります。
・睡眠不足や不眠になっている
お昼間の活動が少ないため、夜になっても寝られない方がいらっしゃいます。睡眠不足や不眠は、認知症の人でなくてもイライラします。体の調子もダルくなります。
・トイレがわからない
トイレへ行くタイミングがわからない。トイレの場所がわからない。誰でも落ち着かないですよね。こういった場合、認知症の症状が強くなることもあります。
このように体調が引き金となって症状が強くなることも多いのです。本人はわかりませんから、うまく言葉や行動で伝えることができません。家族や介護者が「どうしてかな?」と考えてあげることで解決できることも多いのです。
また、体調以外にも次のような原因が症状を強くすることもあります。
・引っ越しや住んでいる環境の変化
・同居する人が変わった
・お部屋の模様替えをした
・本人の使い慣れたものを処分した
急激な変化は、認知症の人には大きな負担となります。少しずつ変えていくことで馴染んでもらうようにすると良いでしょう。
そして、家族関係が原因になることもあります。
・同居する人同士がうまくいっていない
・本人を叱ることが多い
認知症の人は記憶があいまいになっているだけで、感情や知識や経験をなくしている訳ではありません。家族同士がいがみ合っている場合、表情や態度、口調から感情を感じ取ることができます。
しかし、どうしていがみ合っているのかわからないため、不安を感じ症状が強くなることもあります。
認知症の人が安心する接し方のコツ
では、認知症の人に安心してもらえるような接し方とは、どのようなものでしょう。
実は、特別なことではありません。人と人がよりよく関係性を続けるためには、認知症であってもなくても同じことをするだけなのです。
症状の強さを観察する
相手の症状の強さや進行具合を観察し理解することが大切です。どの程度、記憶があいまいになっているのか。時間や場所はわかっているのか。人を見て誰かわかっているのか。
そして、ここで忘れてはいけないのは、本人の知的レベルは記憶を忘れても変わらないということです。
まずは相手を正しく知ること。仕事でも友人関係でも同じですね。
話し方を変えてみる
認知症の方の多くは高齢者です。そのため忘れることが多いこともありますが、こちらの話していることが聞こえていないという場合もあります。
ですから、次の点に注意して話し方を変えてみましょう。
・大きな声でゆっくり話す
・おだやかな口調で話す
・わかりやすい言葉で話す
・具体的に話す
この中で難しいのは「わかりやすい言葉」「具体的」だと思います。
(1)わかりやすい言葉とは
簡単にイメージしやすい言葉を選ぶということです。
例えば夕飯のとき「食事の用意ができましたよ」というよりも「ごはんを食べましょう」の方がわかりやすいですね。
また、一回の話には1つのことだけを伝えるようにするのも方法です。
「着替えが済んだら散歩にでもいきましょうか」ではなく
「着替えましょう」と伝え、本人の着替えが終わったのを見てから「散歩に行きましょう」と分割して伝えると混乱が減ります。
(2)具体的とは
本人へ質問をするときに多いのですが、抽象的な言葉を使って質問しても、本人は「何のことなのかわからない」ため、上手に答えることが難しくなります。
「ごはん、おいしかったですか?」と聞くよりも「この煮魚、辛くない?」の方が「はい、いいえ」で答えられるので上手にコミュニケーションが取れるでしょう。
態度は伝わりやすいことを知る
先ほども出てきましたが、認知症の人は、感情や知的レベルを記憶と同じように失っているわけではありません。そのため相手の表情や態度から感覚的に察することはできるのです。
いくら言葉では「気にしないで、怒っていませんから」と言ったとしても、態度や表情が言葉と一致していないと、本人は「どうして怒っているのか」を理解できないまま不安を抱え込むことになります。
また、本人に感情や知的レベルがないかのような態度で関わることは、お互いの信頼関係を損なうことにもなりますので、気をつけておくことが大切です。
介護者が心掛けたいこと
実際には大変難しいことだと思います。目の前の人が、これまでと変わらない容姿でありながら以前と違うということは、なかなか受け入れがたいことであることは確かです。
しかし、今の状態を否定的に見るのではなく、家族や介護者は「これまで」の本人の活躍や暮らしを認めることからはじめてもらいたいのです。
こういった心掛けを行うことで、少しずつ本人にも尊敬や感謝の気持ちが伝わっていきます。
介護者の気持ちもケアしてあげよう
本人の気持ちを知り、適切な対応をするだけではなく、介護する側の気持ちもケアしてあげましょう。
認知症は、他の病気にくらべ介護の負担が大きいものです。
本人の病気を受け入れましょう
何をおいても、本人の病気を受け入れましょう。本人もなりたくてなったのではありません。自然に起こった病気なのです。
仮に「もっとしっかりしてください」とか「昔のように戻ってよ」と言ったとしても、本人の努力ではどうしようもありません。
すべては病気が原因で起こっていることなのです。そして、記憶が失われていくという不安を一番感じ、つらい思いをしているのは間違いなく本人なのです。
認知症は病気であることを認め、本人の症状を受け入れましょう。
家族が役割を決められると◎
認知症の介護は数年続くことが多いです。そのため一人で抱え込んでしまうと、かなりの負担を背負ってしまうことにもなりかねません。
そこで、早い段階で家族が行う介護と事業者が提供する介護サービスの利用を組み合わせて、それぞれの役割を決めておくと良いでしょう。
・認知症の人を日中預かってくれる場所を見つけておく
・外出の付き添い
・車での送迎
・介護申請などの面倒な手続き
・普段の話し相手
家族の一日のスケジュールを洗い出し、自分たちだけでは介護できない時間や曜日は介護サービスの利用を検討することもできます。
無理をしない&割り切りも大事
介護者によって何より大切なのが「無理をしない」こと。そして「割り切る」ことです。
完璧な介護は負担が増える一方です。簡単な部分から外部のサービスを利用して、良い意味での手抜きをすることも覚えておきましょう。
例えば、毎日の栄養を考えた食事は、かなり負担の大きい部分。
こういった部分に、宅配弁当サービスを週に1~2回利用することで、栄養管理もされたおいしい食事が手間なく届きます。
毎日のことの中で、ちょっとしたことから外部のサービスを利用すると、少しずつ介護も楽になっていきます。
また、本人や家族も同じですが、介護に外部の人が少しずつ入ってくることに慣れておくことも大切ですね。
限界を感じたらガマンしなくてOK
積極的に居宅介護サービスを利用しましょう。介護は家族が家でやらないといけないことではありません。
介護の本質は、本人が快適に暮らすことができることです。そのためには、家族での介護に限界を感じたなら、プロの手を借りるのが良いのです。
主な居宅介護サービスには、次のようなところがあります。
訪問介護(ホームヘルプ) | ヘルパーさんが自宅へ訪問して、食事やトイレなどの介護をしてもらえます。掃除や家事などの援助もあります。 |
訪問看護 | 看護師さんが自宅へ訪問し、健康状態をチェックしてくれます。衛生面でのケアも行ってもらえます。 |
認知症対応型通所介護 | 施設に通い日中を過ごします。24時間の介護から解放される時間ができるでしょう。 |
短期入所生活介護 | ショートステイと呼ばれているサービスです。施設へ宿泊してもらえるため、介護者の気分をリフレッシュすることもできるでしょう。 |
また、「公益社団法人 認知症の人と家族の会」というところがあります。
会員の方同士のつどいがありますので、こういったところで同じ経験をしているもの同士、グチでも良いですので苦労を聞いてもらう、お互い同じような想いをしていることを共有するのもおすすめです。
(URL:http://www.alzheimer.or.jp/)
まとめ
認知症の方の介護は数年続きます。ですから介護する側が認知症について知り、認知症の方の気持ちを理解することからはじめましょう。
認知症は病気ですから、本人の記憶がないからと叱っても意味がありません。気持ちはわかりますが、何の解決にもならず、本人に不安を増やさせるだけなのです。
認知症の人の気持ちを知り、介護者の気持ちをケアすることで、介護は少しでも楽になるのではないでしょうか。