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がんの中でも胃がんと診断される男性は最も多く、女性では乳がん、大腸がんに次いで3番目に多いがんです。
胃がんで胃の切除手術をするとこれまでと同じような食事が受け付けなくなったり、食べた物や食べ方によっては吐き気や便秘、下痢などの症状を起こすこともあります。
ここでは胃がんで胃を切除した高齢者向けの介護食について解説していきます。
目次
胃がんとは?
胃がんは胃の内側にある粘膜にがんが発生した症状で、日本では肺がんや大腸がんに続いて死亡数の多いがんです。男性では9人に1人、女性では18人に1人が胃がんと診断されており、男性に多いという特徴があります。男女とも発症のピークは60代です。がんによる死亡数の統計をみると、男性のがんの中では2位、女性では3位となっており毎年5万人弱が胃がんにより亡くなっています。
わが国では胃がんの早期発見・早期治療の進歩が著しく、胃がんになる人は高齢化の影響で増加していても、完治する方が多くなっているため、年々患者数は減少傾向にあります。
胃がんはヘリコバクター・ピロリ菌の感染や喫煙、高塩分の食品の摂取などが発症の原因と考えられています。早期では症状はほとんどありませんが、進行すると吐き気や胸のつかえ感、胃痛、胃の不快感、食欲不振などの症状が出ることがあります。
治療法は?なぜ食事療法が必要?
胃がんの治療法には内視鏡治療、薬物療法、外科的手術などがあります。治療方法は、がんの進行状態や患者の全身状態などから決定されます。
胃がんの治療の選択
※D1、D1+、D2:リンパ節郭清の範囲を示します。
内視鏡治療は口から内視鏡を入れ、胃の内側からがんを切除する方法です。がんが粘膜層にとどまっており、原則リンパ節転移の可能性が少ない早期のがんの場合に行われることがあります。がんの部分だけを切除するため身体への負担は少なく、術後食生活への影響は少ない治療法です。
内視鏡治療が難しい場合には、外科的手術による治療が選択されます。手術ではがんと胃の一部、または全てを取り除きます。リンパ節への転移がある場合は、胃の周辺のリンパ節も同時に切除することもあります。外科的手術はお腹を20cmほど切る開腹手術と、小さい穴を何箇所か開けて内視鏡下で手術を行う腹腔鏡下手術があります。
薬物療法は、手術で切除するのが難しいがんや再発がんに対する化学療法と、再発を予防する術後化学療法があります。前者では薬でがんを完治させることは難しいですが、がんの進行を抑えることで生存期間が延長したり、症状を和らげたりすることができます。後者では、手術で取り除けなかった目に見えないほど小さながんによる再発を予防するために行います。
胃は食べたものを消化、吸収する器官であるため、手術により一部でも切除されることで胃の機能が低下してしまいます。原則として食事制限はありませんが、食べ方や食事内容によってはめまいや吐き気、呼吸困難を引き起こす可能性のある「ダンピング症候群」という状態になりやすかったり、つかえ感や下痢、便秘などの原因にもなります。
これらの症状は食事療法で完全に予防することはできませんが、生じにくくすることは可能です。
胃切除後の食事の注意点は?
手術により胃を一部切除、または全て摘出すると、胃の貯蔵する力が低下し、食べ物が急速に腸へ流れていきます。また、食事量が減少したり、栄養の消化吸収が低下したりします。
一回の食事量は無理せず少なめにし、回数を増やす
胃が小さくなる、もしくは無くなるためたくさん食べることができなくなります。そのため一回の食事量を少なくし、食べる回数を増やしましょう。1日3食を基本に、2回ほど間食を挟みます。
例:7:00朝食、10:00間食、12:00昼食、15:00間食、18:00夕食
摂取エネルギー量が不足している時は栄養補助食品などで補うと良いでしょう。個人差はありますが術後3~4ヶ月ほどすると1回の食事量が多く食べられるようになるため、徐々に間食の量を減らすことができます。
よく噛んでゆっくり食べる
よく噛むことで食べ物が細かく砕かれ唾液と絡むため、消化吸収を助け、腸の負担を減らすことができます。ゆっくり食べることで腸へ食べ物が急降下することを防ぎ少しずつ腸に送り込む機能を補うことにもなります。
食事時間は規則的にする
時間を守って食べることで腸の食べ物を受け入れる体制が整います。便秘予防にも繋がります。
食事はバランスよく、消化吸収がしやすいものを中心に摂取する
残った胃や胃のかわりにしている腸に負担をかけないよう、消化が良く、油を控えめによく加熱して柔らかく調理したものを摂取するようにしましょう。
食事内容は段階的に進める
食べるものに制限はありませんが、消化の悪いものを食べ過ぎると胸焼けやお腹が張ったり、下痢の原因にもなります。消化の良いものから食べ始め、段階的に腸を慣らしていくようにしましょう。
アルコールはほどほどにする
アルコールは禁止ではありませんが担当医と相談のうえで開始することをおすすめします。摂取することで食べ過ぎたり、下痢をしやすくなったりします。また、炭酸を含むものだとお腹が張りやすくなります。
過度の刺激となるものは避ける
香辛料や濃すぎる味付けのものは腸にとって負担となります。
熱すぎるもの、冷たすぎるものは避け、温度調整をする
腸の負担となり、下痢の原因になります。
食後30分は横にならずにゆったりと過ごす
食後すぐ横になると逆流や胸焼けの原因となります。
食直後の運動は控える
ダンピング症候群を誘引してしまう可能性があります。
胃切除後の食品の選び方や調理法は?
胃を切除することで消化力が低下してしまうため、消化の良い食品、調理法を選択することが重要です。腸に負担がかかりにくい調理法は、柔らかく煮る、蒸す、裏ごしやつぶしてペースト状にする、きざむなどがあります。おかずはなるべく脂質の少ない白身魚やささみ、豆腐などを選択しましょう。
また、油脂類を控えることで逆流や胸焼けの原因となる逆流性食道炎の予防となります。
胃切除後の食事の選択
おすすめの食品 | 控えたほうがよい食品 | |
穀類 | ごはん、おかゆ うどん、そうめん 食パンなど | 赤飯 チャーハン ラーメンなど |
芋類 | じゃが芋、長芋、里芋 | サツマイモ |
魚介類 | 魚介類全般 はんぺん、かまぼこなど | いか、たこ |
肉類 | 牛肉(脂の少ない部位) 豚肉(脂の少ない部位) 鶏肉(皮を除く) | 硬い肉、すじ、ホルモン とんかつ から揚げ |
卵 | 茶碗蒸し、卵焼きなど | |
大豆製品 | 豆腐、焼き豆腐、高野豆腐、納豆 | 生揚げ がんもどき |
野菜 | 野菜類全般 | れんこん、ごぼう、たけのこ きのこ類全般、こんにゃく |
果物 | りんご、バナナなど 果物の缶詰 | パイナップル 梨、柿 |
乳製品 | 牛乳(冷たくしすぎない) ヨーグルト、チーズ | |
海藻類 | わかめ、ひじき、切り昆布 | |
塩蔵品 | たくあん、らっきょう わさび漬け、からし漬け、奈良漬け | |
調味料 | わさびやからし、カレー粉などの香辛料 (少量であればOK) | |
飲料 | りんごジュースなどの果汁 紅茶やコーヒーは薄める | 酒 炭酸飲料 |
菓子類 | カステラ、ビスケット プリン、ウエハースなど | 揚げ菓子、豆菓子 生クリームが多い洋菓子 |
胃切除後に多い合併症とは?
早期ダンピング症候群
食後すぐから30分以内に冷や汗や動悸、めまい、脱力感、頭痛、呼吸困難等の症状が現れることがあります。胃を切除したことにより、食べ物が急速に腸へ流れることで、腸が驚き、激しく収縮したりホルモンを分泌することためこれらの症状が起こります。
<予防法>
ゆっくりよく噛んで食べ、甘いものは食べ過ぎないようにしましょう。一回量が多くならないようにすることも大切です。
後期ダンピング症候群
腸管で糖質を吸収し、急激に血糖値が高くなると血糖値を下げるためのホルモンであるインスリンが大量に分泌されて、逆に下がりすぎてしまうことでめまいや脱力感、冷や汗、震えなどの低血糖症状が出ることがあります。食後2~3時間経過した頃に起こりやすく、飴やジュースなどの糖分を補うことで症状は改善されます。
<予防法>
食後2時間後くらいに間食をとったり、前駆症状が現れたらすぐに糖分を補給しましょう。血糖値が下がりすぎると意識を失ってしまうこともあるため、外出時にも糖分は持ち歩きましょう。吸収されやすいブドウ糖がおすすめです。
逆流性食道炎
胃の入り口(噴門)や出口(幽門)を切除した場合に胃の逆流防止機能が失われるため胃液や腸液、胆汁などの消化液が逆流すしやすくなり、胸焼けやつかえ感などの症状が起こることがあります。
<予防法>
食事はゆっくりよく噛み、水で流し込むことはしないようにしましょう。食後すぐは横にならず、30分は身体を起こした状態で過ごし、夕食は就寝前2~3時間前に食べるようにしましょう。また、脂肪の多い食事を控えることで胆汁の分泌が亢進されるのを防ぎます。
貧血
胃切除、特に全摘した場合に起こりやすく、胃酸の分泌が減少するため鉄分が吸収されにくくなり鉄欠乏製貧血を起こすことがあります。また、赤血球を作るために必要なビタミンB12というビタミンが吸収されなくなってしまうことでも貧血が起こりやすくなります。ビタミン欠乏性貧血は、胃全摘後数年経過してから貧血となることが多いです。
<予防法>
レバーや肉類、ホウレン草などの鉄分が多く含まれた食品を積極的に摂りましょう。また、ビタミンCを摂取することで鉄分の吸収を助ける作用があるため、ビタミンCが多く含まれる食品も積極的に摂取するようにしましょう。ビタミンCが緑黄色野菜や果物類に多く含まれます。
ビタミン欠乏性貧血の場合には食品では補えないため、注射による補給が必要となる場合もあります。
骨粗しょう症
胃切除後はカルシウムの吸収も減少します。そのため骨のカルシウムが減少して骨が脆くなるため、骨折しやすくなります。
<予防法>
牛乳やチーズなどの乳製品や小魚などカルシウムが多く含まれる食品を積極的に摂りましょう。カルシウムの吸収にはビタミンDが必要です。ビタミンDは日光に浴びることで作られるため、適度に日光浴を行いましょう。
下痢
消化液の分泌が減少するため、消化吸収が低下し下痢をしやすくなります。自分で工夫しても症状が治まらないときには、主治医に相談しましょう。
<予防法>
消化の良い食品を少量ずつ何回かに分け、時間をかけて食べることで腸の負担を減らすことが出来ます。 また、下痢で水分が不足すると脱水となってしまうため、水分補給をこまめにしましょう。水分と一緒に電解質も補給できるスポーツドリンクがおすすめです。
まとめ
胃切除後の食事は、腸に負担がかからないように消化吸収の良いものをバランス良く食べることが大切です。また、ダンピング症候群や逆流性食道炎などの合併症を予防するために食品や調理法、食べ方などに気をつける必要があります。
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